冒頭:軍議に出て、軍を出さぬとは?
ワシ:「……これは何の会議じゃ?」
部下:「DX推進会議にございます」
ワシ:「“推進”とは、進むことではなかったか?」
部下:「はい。進めるための戦略を……会議で……」
ワシ:「ふむ。で、前回から何か進んだのか?」
部下:「……議事録はまとまっております」
ワシ:「……敗戦じゃ」
(ナレーション)
これは戦国で言えば、
**「軍議ばかり重ね、誰一人として出陣しない」**ということ。
会議のための会議、決裁のための資料、KPIのためのKPI。
信長、令和の“動かぬ軍議”に斬り込む。
第壱章:責任なき参謀たち
DX推進会議。
その名のもとに、総務、営業、マーケ、情シス、経営企画……
各部署から“それらしい者たち”が召集される。
部下:「皆さま、現場での課題を洗い出してまいりました」
部下B:「それでは次回までに“あるべき姿”を整理しておきましょう」
ワシ:「……誰がやるのじゃ?」
部下A:「はい、部として検討を……」
部下C:「当方は他案件が詰まっておりまして……」
部下D:「うちのDX担当はこの4月に異動しました」
ワシ:「……無血開城か」
“参加はしている”。
だが、誰も実行せぬ。誰も責任を持たぬ。
それでは、軍議に出て、軍を出さぬに等しい。
ワシ:「“推進”と名乗るならば、まず“動かぬ者”を締め出せ」
第弐章:“推進者不在”の会議体
問題は、旗を持つ者がいないこと。
- DX専任者はいない
- プロジェクトマネージャーは不在
- 決裁権限は持たぬ
- 戦略も運用も“兼任担当”
ワシ:「それで何を推すつもりじゃ? 空気か?」
部下:「企画部で案を検討し、現場で精査し、IT部門で調整を……」
ワシ:「つまり、誰も“手を下さぬ”ということじゃな」
戦において、誰が“出陣命令”を出すかが曖昧であれば、
兵は動かぬ。
それと同じで、DX推進も“誰の戦”かが曖昧なままでは、動かぬのだ。
第参章:“現場”が蚊帳の外にいる
ワシ:「この会議に、オペレーターは参加しておるか?」
部下:「いえ、業務がございますので……」
ワシ:「現場を知らぬ者たちで、“現場の未来”を語っておるのか?」
部下:「ヒアリングは実施しております」
ワシ:「ほう。“城を見たことのない者”が“天守閣の改修図”を描くようなものじゃな」
現場が蚊帳の外にいれば、絵空事になる。
だからこそ、現場を巻き込んだ実証→改善→展開こそが推進。
ワシ:「“下から突き上げられるような布陣”でなければ、民は動かぬぞ」
第四章:数値の山、兵の足は止まる
会議資料にはKPIが並ぶ。
- 応対時間削減:15%
- 顧客満足度向上:+10pt
- ペーパーレス率:80%
- 電話→チャット移行率:50%
ワシ:「……兵を数字で打つ気か?」
部下:「定量目標で進捗を可視化しまして……」
ワシ:「その“進捗”を出す兵の顔を、誰が見ておる?」
KPIとは「旗」である。
だが、旗だけ立てて、誰も前に進まぬなら、ただの“立札”じゃ。
ましてや、現場の苦悩や、混乱、限界に気づかぬまま、
数字だけを詰めさせれば、やがて兵(社員)は倒れる。
ワシ:「“数”だけで人を動かせるならば、戦に苦労はせぬ」
第伍章:改革疲れという病
部下:「以前も“働き方改革”で、同じようなことを……」
部下B:「去年は“業務見直しプロジェクト”が……」
部下C:「また“〇〇タスクフォース”が立ち上がるそうで……」
ワシ:「……病よのう」
改革を掲げては形骸化し、また別の名で蘇る。
まるで、“何度も名前を変えて同じ戦略を打ち続ける”戦国大名のよう。
だが、城主が代わっても、兵の疲労は抜けぬ。
“またか”の空気は、最大の敗因。
ワシ:「掛け声だけの旗に、兵は従わぬ」
第六章:信長、会議室に火を放つ
ワシ:「その軍議、すでに3ヶ月。何を決めた?」
部下:「KPIと、スケジュールと、次回の議題を……」
ワシ:「次回? まだ続けるつもりか?」
部下:「……はい」
ワシ:「――この部屋を焼け」
(沈黙)
ワシ:「“推進”とは、旗を振ることではない。先に歩くことじゃ。
進まぬ軍議など、信の長く続く道には不要。
策を描けぬ者は、矢を持つな。
会議に名を連ねるだけなら、烏帽子でも被って舞っておれ!」
あとがき:推進とは、“まず歩く者”がいてこそ
「DXを推進せよ」――
多くの組織で、その言葉だけがひとり歩きしておる。
だが、推進会議を何度開こうが、
“誰も動かないなら、何も始まっていない”。
策を描く者と、実行する者。
旗を掲げる者と、進む者。
そのすべてが一致することこそ、布陣なのだ。
信長なら、こう言うだろう。
「推進会議は、戦にはならぬ。
まず動け。それから策を練れ。
軍が動き、民が動き、城が築かれてからこそ――それが“戦国のDX”じゃ。」