冒頭:任せずして、育てられると思うなかれ
――織田信長、令和の企業にて“育成計画”なる文書に目を通す。
ワシ:「ふむ、“手取り足取り、順を追って、何年かけて…”とあるな」
部下:「はい、“失敗させないこと”が育成の基本ですので」
ワシ:「…それでは、戦場で生き残れるはずがなかろうが。」
育てるとは、任せることである。
教えて、指示して、見張って……それでは猿も育たぬ。
第壱章:“マニュアル上司”の落とし穴
今の世では、「言わねば伝わらぬ」「全部説明せねば動かぬ」
――そう信じておる者が、あまりにも多い。
- 「自分で考えるな、手順通りやれ」
- 「責任は取らぬが、口は出す」
- 「部下が失敗したら、育成不足と申告」
このような上司のもとでは、何年経っても“自走する者”は生まれぬ。
ましてや、非常時に動ける者など、育ちようもない。
ワシは言うぞ。
「戦場では、矢が飛ぶ中で策を練るのじゃ。
書面にて育つ兵など、役立たずよ。」
第弐章:藤吉郎と、“余が何も言わなかった日”
墨俣一夜城――藤吉郎にすべてを任せたあの一件。
「砦を築け。策はない。すべて己で考えよ」
――それが余の言葉のすべてじゃ。
普通の家臣なら固まる。泣き言を申す。責任を逃れようとする。
だが、奴は笑うた。
- 材木を上流で筏に組み、
- 夜のうちに川を下らせ、
- 夜明けと同時に砦を形にした。
一夜城などというが、あれは一夜で出来たわけではない。
**“誰にも口出しされぬ中で、死に物狂いで考え抜いた結果”**じゃ。
ワシは一切、指示せぬ。聞かれても、「好きにせい」と返すのみ。
それでこそ、才は鍛えられる。
第参章:育てたいなら、まず任せよ
DXとやらも、変革も、
結局は「人」が動くか否かじゃ。
- すべて上が決め、
- 現場に“やらされ感”だけを残し、
- 自律なき兵を並べる。
それでは、勝てぬ。
任せよ。黙して待て。
失敗したら、責める前に、「任せ方」を省みよ。
あとがき:部下は“矢”ではない。矢を放つ者に育てよ。
使い捨ての“弾”としてではなく、
己で狙いを定め、意思を持って放てる者こそ、真の武器。
「人材育成とは、矢を削ることにあらず。
弓を手渡し、的を見せることじゃ。」
失敗する自由のない者に、成功など巡っては来ぬ。